鳥カゴの中はいつも空っぽ

たとえば空が感動的に青くてもココロの穴はふさがらない

これが普通だと思っていた

小学生の頃、家から少し離れた所に初めてのマクドナルドができた。ハンバーガーという食べ物もマックシェイクも、すごいご馳走に思えた。何故か最初に食べたのはフィレオフィッシュで、タルタルソースの味が感動的だった。

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食卓はカウンター

いつも店のカウンターのはしっこで晩ごはんを食べる。両親はカウンターの中の人、食卓を共にするのはその時そこにいるお客さん。晩ごはんのおかずは、ぶりの照り焼き、冷奴、だし巻き卵。ハンバーグとかオムライスとか、子供の好きそうなものは出てこない。子供の頃はおでんが嫌いだった。今は好きです。

電気工事のお兄ちゃんや、散髪屋のおじさん、化粧品メーカーに勤めていたお姉さん、みんなその日の出来事を話す。仕事での嫌なことも何故か笑い話になってしまう。居酒屋のカウンターは不思議な場所だと思う。いろんな人のいろんな話を聞きながら、晩ごはんはいつもワイワイ大家族みたいだった。

 阪神戦のある日はテレビで野球中継を観る。8回あたりで接戦だったりするとそれはそれは盛り上がる。肝心なところで阪神の打者が凡フライを打つと「電気消せー!」と叫ぶ。
ある日、審判の判断が元で乱闘になった。熱狂的な阪神ファンだったお兄さんが、「ちょっと電話するわ」と言って、店の電話で甲子園球場に電話をかけた。ガラケースマホもない時代、ダイヤル式の黒電話である。「もしもし、今な、テレビで観てるんやけど、あれは審判がおかしいやろ。」と。めちゃくちゃ怒ってた。「え?なんでやねん、あんた試合見てへんのか!…そうか。わかった。」居合わせた人はみんな注目していたけど、お兄さんは意外にあっさり電話を切った。

そしてお兄さんはへんな裏声で、電話で言われたことを真似して言った。「大変申し訳ございません。こちらでお電話の対応をしておりますので試合の方は観ておりませんでした。ただいまからすぐに試合を観て参りますが、よろしいでしょうか?」みんな爆笑。さすが甲子園球場で働くお姉さん、クレーム対応うまいです。

 

朝は静かに

営業時間外のお店って、妙に静かで暗い。特に朝は、空気が疲れて眠ってるみたいであまり好きじゃなかった。朝ごはんは1人で食べる。トーストと目玉焼きというのが定番だったけど、時々変わったものが用意されていた。巻き寿司、冷めたお好み焼き、チャーハン、中華料理店の焼きそば。前日の遅い時間に誰かが持ってきたお土産である。特に疑問にも思わず朝からそんなものを食べて学校に行っていた。

ある時、駅前にミスタードーナツができた。カウンターに確かオレンジ色の丸椅子、映画に出てくるようなアメリカンな雰囲気のインテリアだった。真っ白のパウダーシュガーがかかったフワフワのドーナツが衝撃的に美味しかったなぁ。当時のミスドは24時間営業だったか、とにかく夜中まで営業していて、遅い時間のシフトで働いていたお兄さんが、仕事終わりに時々店に来ていた。夜中に来る人なので直接会ったことはないんだけど、その人が来た次の日は朝ごはんにドーナツの箱が置いてある!静かな朝もドーナツを選ぶだけでテンションが上がったなぁ。

 

贅沢だけど、子供らしくない食生活

今なら、コンビニに行けば早朝でも夜中でも美味しいパンやおにぎりが買える。テレビのCMで美味しそうなものを見たらすぐに買いに行けてしまう。我が家の場合、食べる物は売るほどある。子供のために晩ごはんのメニューを考えたりはしないし、買うこともないのである。小学生の時、友達の家で初めてシーチキンを食べた。ピザを初めて食べたのは中学生の時。その代わり、と言うか、普通子供は食べないでしょ、っていうものは色々食べた。てっちり、鴨鍋、ハモ…大人になった今、贅沢だったなぁと思うけど、その頃はカップヌードルが食べたかった。

いろんな職業の人の話を聞き、いろんなものを食べ、小さな居酒屋は情報に溢れていた。そんな環境で育った子供は、疑似体験ではあるものの経験豊富なヘンな人間になった。