鳥カゴの中はいつも空っぽ

たとえば空が感動的に青くてもココロの穴はふさがらない

シングルファーザーたち

コロナの世の中になってシングルマザーのことが時々話題にのぼる。でもなんでシングルファーザーのことはあんまり何も言わないんだろう?数が少ないから?子供の頃見ていたアニメ「巨人の星」。ちゃぶ台返し星一徹はシングルファーザーだったなぁ。

 

f:id:ms-chaos:20211115090912j:plain

 

オトンの職業は取り立て屋

週の半分くらい、早めの時間にやってくる子連れのおじさん。頭は五分刈り、くたびれたブレザー、そして前歯が1本かけている。男の子は小学校1年生で、これまた五分刈り、そして前歯(乳歯)が1本かけている。見た目的には星一徹と飛馬。よく喋る子供で、一見可愛いけど、そうとうな悪ガキだった。私がカウンターの端っこでご飯を食べてると、隣に座って一緒に食べたいと言う。その姿を見て、おじさんは文字通り目を細める。「よかったなぁ、ホンマのお姉ちゃんみたいやなぁ。」そして私に言った。「お姉ちゃん、悪いけど仲良うしたってな。こいつオカンがおらんから寂しいねん。」

店ではとても愛想が良くて、行儀のいいお客さんだった。。。が、どう見てもサラリーマンには見えない。

ある日、とても疲れた感じで、1人で店にやってきた。「大将、聞いてくれるか」って、その日の出来事を話し始めた。当時小学生の私が聞いてるのも気にせずに。

ある人の家に、借金の取り立てに行った。その日が返済期日だったから。おじさんは債権者から依頼された取り立て屋なのだ。多分債権者はヤバい人たち。借金した人は正座してもう少し待ってほしい的なことを言ったけど、もう何度も足を運んでいるので待てないと強めに言った。てゆーか、脅した。その人は神妙な顔でお金を持ってきますと2階に上がって行った。そこで勘が働いた。おじさんは慌てて土足のまま駆け上がると、まさに、帯のような布を首にかけてるところだった。飛びついて押さえつけた。

ここまで聞くと、自殺を止めた人情話のようだが、実際は自殺されたらお金にならんという話。シュールである。それでもおじさんなりに息子のために頑張って仕事してるのだ。こんな仕事のせいで奥さんに逃げられたのか、それとも奥さんがいなくなってこうなったのか、子供の私には分からなかった。

 

ワイヤーアクセサリー職人

駅前の路上に店を広げて、アクセサリーを売る。昭和の大阪には路上販売の店がいっぱいあった。終電の少し前くらいに店を片付けて、晩酌がてらうちに寄る。長いウェーブの髪、小柄でおしゃれ、ダイヤモンドユカイさんに似た感じの彼はジョーと呼ばれていた。ジョーはワイヤーを器用に曲げてアルファベットの名前ブローチをその場で作ってくれる。動物モチーフや、ストーンを組み込んだゴージャスなネックレス、彼の手からいろんなアクセサリーが生まれてくる。見てるだけで感動する。

ある年の私の誕生日に父がジョーにオーダーして虎モチーフのペンダントをプレゼントしてくれた。今でも大切に持っている。虎はもちろん阪神タイガースのファンだから。

ジョーもシングルファーザーだった。彼の息子は彼と血のつながりはない。どういう経緯なのかどういう関係なのか、子供の私には想像もつかなかった。ジョーの息子には数回しかあったことがないが、小学生で、少し長めの髪でおしゃれな服を着ていた。しいて言えばヒッピー系のファッション。多分ジョーの好み。私には父と息子の会話すらオシャレに感じた。こんなオシャレな人たちがなんでこんな雑然とした居酒屋にくるんだろう?と思うくらい。

 

男性社会に苦しむ男性

当時、シングルマザーには税金の控除など金銭的な助けがあった。でもシングルファーザーには何もなかった。結婚したら男が働き女が家にいるのが当たり前の時代だった。私の父なんて、女が勉強してなんになるねんとマジで言い切ったくらい。今そんなこと言ったら大問題ですよねー。

でもその男性優位社会の中で苦しい立場に立っていた男性がいたのも事実。私が知ってるシングルファーザーたちは、子育てと仕事に追われて大変そうだった。居酒屋でのひとときが、なんでもない会話が、そのストレスやプレッシャーを和らげる場になっていたのかもしれない。頑張ってる彼らにみんな優しかった。

世の中が少しづつ変わってきて”ひとり親”という性別関係なしのワードが存在する。でも、まだ”寡婦”というワードも残っている。そしてやっぱりシングルマザーの方が話題に上りやすい。

海老蔵さんが、シングルファーザーの会とか作ればいいのにね。そういえばダイヤモンドユカイさんも奥様が出て行ったってニュースになってたね。
性別に関係なくひとりで子育ては大変だと思います。

 

※文章中に出てくる人々の名前は仮名です。